東芝未来科学館

 

~ 可視光通信を利用したガイド端末 ~

 東芝が文化交流の場として設立した東芝未来科学館は、JR川崎駅から1分のところにあります。ここには同社の創業期から今日までの最先端技術に関する様々な展示がなされています。

002東芝未来科学館H27.2015.08.26

 

 今回、お邪魔した目的は、実は展示物ではありません。昨年のリニューアルを機に一部展示物の紹介に可視光通信を利用した「ガイド端末」を導入した、との情報を得たため、どんなものなのか、拝見しに来たのです。

 まず、受付でガイド端末をお借りする手続きをしました。用紙に名前と電話番号を記入すると、すぐに貸してもらえました。

 このガイド端末は、7.7インチ型ワイドディスプレイを備えた専用タブレットでした。

 使い方は簡単です。言語の選択など初期設定後、タブレットを持ったまま展示物に近づくと、説明文がタブレット画面に表示され、同時に音声合成による読み上げが始まるのです。

タブレット端末

 上の写真がタブレット端末です。左側上部の丸い穴に受光素子が組み込まれています。右側のコードは耳掛け式のイヤホン、下側には首掛け用のストラップがついています。

 まず、使用する前に、タブレット端末に言語(日本語、英語、中国語、韓国語)、文字の大きさ、音声の種類(女性、男性など)などを設定します。自分の好みに合った設定をしましょう。

 一方、各種展示物の前の天井には、LEDライトが設置されています。このLEDライトの光に、展示物のID情報が含まれているのです。もう原理は分かりますね。

IMG_5384

 

 実は、天井には展示品への照明のためのLEDライトが沢山ありました(上の写真)。

 最初はどれが単なる照明用LEDライトで、どれが可視光通信用のLEDライトか分かりませんでした。しばらくは端末を持ってうろうろしていると、一番小さなLEDライトの下に行くと画面表示が切り替わることが分かりました。

 このLEDライト(下の写真)にID信号が重畳されているのですね。

IMG_5381

 ところで、こんな写真をとっていると、科学館の方に声を掛けられました。やはり展示品でなく、天井のLEDライトの写真をバチバチとっていたら、何をしているのだろうと思われますよね。

 たまたま副館長の方で、事情をお話すると、何とこのシステムを手がけた方をご紹介いただくことができました。HPの案内では、事前に申込をしていれば、館内案内もしていただけるようなのですが、今回、突然お邪魔することとなったため、案内はあきらめていたのです。ありがたい限りです。

 今回こちらで導入された「ガイドシステム」の仕組みは次の通りでした。

 まず、展示物の番号を決めます。そして、その番号毎の展示物の説明を、4カ国語でタブレットに入力しておきます。ですから、タブレットの操作だけで、全部の展示物の解説を読んだり聞いたりすることもできるのです。

 このタブレットを持ちながら、展示物番号に対応したLEDライトの下に移動すると、ID情報が自動受信され、展示物番号に対応した説明が始まります。

 音声ガイドの途中で、展示物の場所を移動すると、タブレット端末は次のID信号を受信します。すると、音声ガイドを中断して、写真のような待機画面が表示されます。

IMG_5387

 

 「音声ガイドを中断しました。別の展示品の識別信号を受信しました。今の展示品の説明をつづけますか?」 「はい又はいいえ」 「〇秒後に、中断している説明をつづけます。」”(左の写真の表示)

 

 

 

 ここで「いいえ」をタッチすると、新しい展示物の説明が始まります。また、そのままにしておくと、〇〇秒後に新しい説明が始まります。

 担当の方にお聞きする前は、この待ち時間はデータのダウンロードの時間かと思ったのですが、単に次の説明の待ち時間として確保した時間とのことでした。

 天井のLEDライトは最小で約1メートルの間隔で取り付けられていました。やはり、電波によるシステムとは比べものにならないほど、照射ビームのサイドの切れはいいですね。

008東芝未来科学館H27.2015.08.26

 また、天井には沢山の照明用のLEDライトも点灯していたのですが、混信もなくID信号はきちんと受信できました。

 端末の音声ガイドには、音声合成技術が使われていました。読み方に多少不自然さは残るものの、理解度には全く問題ありませんでした。日本語だけでなく、他の言語にも使われており、テキスト文書を修正すれば、音声ガイドも自動的に追随するので大変重宝しています、とのことでした。

 この新システムを導入した当初、やはりいろいろなご苦労があったようです。「使い方が難しい」とか、「翻訳説明がおかしい」とか。これらのご指摘に対し、真摯に対応されてきた結果が、今日のシステムへと成長して行ったものと思われます。

 可視光通信については、これからますます技術開発が進んで行くでしょう。今回は、「こんな使い方ができる」という実用化事例の一つとして、このガイド端末のご紹介させていただくことができました。

 今般、お忙し中、ご対応をいただきました東芝未来科学館の関係者の皆様には、改めて御礼申し上げます。

(2015.9.1 一般財団法人日本ITU協会 横田)

 




 

 シリーズ ~ ユニーク技術のご紹介 —

ユニーク技術(1) 

#032 可視光通信 

  ☆ 可視光通信って何だろう

  ☆ 東芝未来科学館レポート ~可視光通信を利用した「ガイド端末」

ユニーク技術(2)

 #035 電波のエネルギー利用(エネルギーハーベスティング)

  ☆ 電波のエネルギー利用 ~環境発電の実用化に向けて

  ☆ フープラ(無電源AMラジオ)について(福井大学 庄司先生)

  ☆ 地デジ電波を電気エネルギーに変換(金沢工業大学 野口先生)

ユニーク技術(3)

 #038 バイオミメティクスとICT

  ☆ バイオミメティクス(生物模倣)とICT

  ☆ 弱電気魚

    1 弱電気魚からのヒント

    2 脳・神経系におけるコミュニケーションとコンピュテーション(統計数理研究所 瀧澤先生)

    3 コンピュータの”進化”によるイノベーション

ユニーク技術(4)

 #040 海中における電波利用の可能性

  ☆ 海中における電波利用の可能性(JAMSTEC 吉田先生)

 ユニーク技術(5)

#042 夢の通信技術

  ☆ ニュートリノ研究に欠くことのできない我が国の匠技術(日本無線硝子(株))

  ☆ 究極のどこでも通信を可能とするニュートリノ?!

 ユニーク技術(6)

#044 いまだ未知未踏に満ちあふれている光

 ☆ いまだ未知未踏に満ちあふれている光 ~ナノホトニクスの世界(浜松ホトニクス(株))

ユニーク技術(7)

#045 電池の最新事情と電気通信