2018年世界情報社会・電気通信日の特別記念局8J1ITU運用レポート

2018年の8J1ITUの交信数とその概要
 一般財団法人日本ITU協会が後援する日本ITU友の会アマチュア無線クラブは2018年5月1日から31日まで「世界情報社会・電気通信日」の特別記念局コールサイン8J1ITUを運用しました。昨年は11,948局の交信でしたが今年は12,046局と交信し昨年の交信数を若干上回り、2013年から目標とした1万局交信の目標を今年も達成しました。 昨年度のコンデションは日本ITU友の会アマチュア無線クラブが特別記念局の運用を始めて以来電波伝搬の状態が最悪とも思われる悪いコンデションでしたが、今年のコンデションはさらに悪化し、歴代の運用の中でも最悪のコンデションの中での運用となりました。
今年の運用では北米の伝搬が特に悪く、CWで何とか交信できる程度でした。ヨーロッパ方面もほとんど伝搬が開けず、運よく伝搬が開けてもSSBで交信が可能な時間は短時間でした。 国内の交信もいつでも交信ができる7MHzのバンドでさえ午後の時間帯では設備も良い局以外は聞こえてこない事が多く、バンド内は閑散となりCQの連呼という忍耐の要求される、かってないような悪いコンデションでした。
交信の相手局としては国内8,241局で68%海外局が3,805局で32%、という内訳でした。
 海外局との交信割合はこの5年間の記録を見てもコンデションの悪化を反映して2014年の44%をピークに年々減少しています。 昨年は30%と落ち込んでいます。 今年は32%と少しだけ回復しています。 この回復はコンデションを反映したのではなく、新しく運用を開始したFT8という新しいデジタルモードによる交信が貢献したためです。
 海外通信の主役は微弱な信号でも通信が可能なCWモードですが、さらに微弱な信号に対応できるFT8による運用が加わったためにCWの割合は少し低下しています。
 運用地別にみると昨年の場合、移動しない霞ヶ浦の1KW局の運用割合は76%でしたが、今年の運用では移動運用が活躍した結果、霞ヶ浦の局の割合が70%と減少しています。 遠距離の移動としては、昨年は小笠原移動で成果を上げましたが、今年は北海道旭川市の木下(JA8CCL)の無線局のアンテナを使って5月30、31日の2日間移動局による運用を行いました。
総体的に見ると、昨年より電波伝搬のコンデションがさらに悪化する中で、週末以外の日の移動運用を活発に行い、低電力でも遠距離通信が可能なFT8のモードの運用で1000局を超える交信を行い、交信数を少しでも増やすといった地道な努力によって今年も目標を達成する事ができました。

運用の準備
 今年は特にアンテナのトラブルも無く、事前の準備期間であまり時間に余裕が無かったために、例年行って来た霞ヶ浦のシャックの整備と周辺の草刈りは行いませんでした。 無線局の設備では、新たに八重洲無線のFT991Aとエキスパートエレクトロニクス社のMB1を加え、FT8を運用するための変更申請も併せて行いました。

運用について
 8J1ITUはかすみがうら市にある1KWの固定局による運用が主力となっています。 霞ヶ浦の局には4本のタワーに各種のビームアンテナを搭載し、1.8MHzから430MHzまでのアマチュアバンドにおいて最大7局が同時運用可能な設備を持っています。 霞ヶ浦局の運用は週末に限って行われます。 霞ヶ浦には、無線室の他に12人が宿泊可能な宿泊施設を持ち、24時間の連続運用が可能です。 海外局、時にユーロッパの局と交信できる時間帯は真夜中なので、ヨーロッパの局と交信するには、宿泊を伴います。 金曜の夜に集合し、日曜の午後解散するといった日程で毎週末の運用を行い全交信の7割をここで行っています。
 週末以外の日は各クラブ員が自宅のアンテナや移動先でアンテナを仮設して移動運用を行います。 移動するアマチュア局は最大50Wの出力しか出せませんので、交信の中心は国内交信になります。 アマチュア無線の場合運用地が変わると、交信結果でアワードの申請に利用できるための、すでに交信を終えた局でも、違う移動地であれば再び交信してくれます。 また霞ヶ浦からは交信しにくい地域でも、北海道など離れた場所からは簡単に交信できるなど、各地で運用する事によって、普段、8J1ITUとなかなか交信できない局に対してもサービスする事ができます。

今年の運用
 今年の運用開始日の5月1日は火曜で霞ヶ浦での運用は行いませんでした。 初日の運用は土浦市にて運用開始となりました。
霞ヶ浦の最初の運用は2日の夜からですが、この日は運良くヨーロッパがSSBでオープンし、ベテランのオペレータが1時間100局のペースで快調にパイルアップ(大勢の局から呼ばれる)をさばいて行き、米国在住の古谷さんも参加して、ネイティブな英語でユーロッパの各国と沢山の交信を行いました。 この日は特にコンデションが良く、SSBでヨーロッパのモービル局とも交信できるほどの良いコンデションでした。 これなら今年のコンデションは期待できる期待が膨らみましたが、その後のコンデションは落ちる一方で連休中は伝搬の悪い中での運用となりました。 連休中の運用参加人員は多く、一時は無線室に人があふれ、見学も立ち見状態となりました。 大勢のオペレータが参加して複数のバンドで長時間運用し、連休だけで3,653局の交信を行いました。
 海外の信号が殆ど聞こえなくなる中で、新しく運用を開始したデジタルモードのFT8だけは海外の信号が受信でき終日運用して交信を重ねて行きました。
FT8は50Hzの狭帯域、伝送速度6.25ボー 8値FSKで文字を送受信するデジタルモードで、月面反射通信用に開発された通信方式をHFの通信用に少し高速化したもので15秒間に誤り訂正コードを含む75Bitの信号を送る事ができます。 従来のアマチュア無線の交信では相手の信号が耳で聞こえなければ交信ができませんがFT8の場合交信限界のS/Nが-20dBと低く、雑音に埋もれて耳で信号が全く聞くことができないような弱い信号でも電文をデコードする事ができます。 このため、従来の伝搬ではもう交信できないような弱い伝搬状態であっても海外と容易に交信ができる夢のような通信方式です。
 今年のような電波伝搬の悪い状態で従来のCWやSSBでは通信ができないような状況でも通信が可能なため、人気が急上昇中の通信モードです。 SSBで交信した場合、最速で20秒から30秒で1交信成立できるのですが、FT8の交信の場合、CQ+コールサインを送信し、CQ局に対して応答局が、自局コール+自局レポートを送り、CQ局から“R”(了解の意味)+レポートを送信し、応答局が“R”を送って1交信が成立とされます。 1交信を成立させるには双方2回の電文の交換が必用となり、1交信に最速で1分かかります。平均すると交信時間が他のモードの倍以上の時間が必用ですが、他のモードでは交信できないコンデションでFT8だけが稼働するといった場面が多々ありました。
 アマチュア無線の技術開発では、ほとんどのアイデアは出尽くしたかに思われがちですが、FT8のような先進的な通信方式の開発は続けられています。 アマチュア精神は未だ健在と言えます。 アマチュア発の通信方式が業務用の通信としてさらに発展していく可能性を感じました。

移動運用
 移動する局は、流山市、横浜市、常陸太田市、太田市、東京板橋区、野田市、高崎市、柏市、我孫子市、常陸大宮市、つくば市、土浦市、石岡市、八街市、さいたま市、鴻巣市、北海道旭川市と各地で運用を行い全交信数の30%を移動する局が交信しています。

「世界情報社会・電気通信日のつどい」式典の参加
ITUの5月17「世界情報社会・電気通信日のつどい」の式典の会場では8J1ITU局の運用風景をビデオで紹介し、世界中にあるSDR受信機の音声をインターネット経由で受信する公開受信を行いました。

総括
 2018年の8J1ITU記念局の運用は過去最悪とも思われた2017年をさらに下回る電波伝搬のコンデションの中での運用でした。 多くのオペレータが参加し、各地で活発に移動運用を行い、FT8など微弱な電波でも交信できるモードに挑戦しクラブ員各位の協力のおかげで、今年も1万局の目標を達成する事ができ「世界情報社会・電気通信日」を国内外に広くPRする事ができました。 この成果はひとえに日本ITU協会の皆様のお力添えと、日本ITU友の会アマチュア無線クラブの会員の努力の賜物と皆様に感謝したいと思います。
      2018年6月28日 日本ITU友の会アマチュア無線クラブ 会長 木下重博