2017年世界情報社会・電気通信日の特別記念局8J1ITU運用レポート

2017年の8J1ITUの交信数とその概要

 一般財団法人日本ITU協会が後援する日本ITU友の会アマチュア無線クラブは2017年5月1日から31日まで「世界情報社会・電気通信日」の特別記念局アマチュア無線局コールサイン8J1ITUを運用しました。昨年は12,922局の交信に成功しましたが、 今年のHFバンドの伝搬のコンデションはかって経験した事のないような最悪のコンデションとなりました。合計の交信数は11948局で2013年に立てた1万局の交信目標を何とかた達成することができました。

今回の運用では特に北米の伝搬が悪く、CWで何とか交信できる程度でした。ヨーロッパ方面もほとんど伝搬が開けず、運よく伝搬が開けてもSSBで交信が可能な時間はせいぜい2-3時間しか無なく、DX通信の多くはCWモードにたよるといった状況でした。 

 DX局との交信割合はこの5年間の記録を見てもコンデションの悪化を反映して2014年の44%をピークに、今年は30%と大きく落ち込んでいます。 一方CWの運用割合は2014に50%であったのに比べ、今年は62%と2割も増加しています。 今年も1万局の交信が達成されたのはベテランCWオペレータの腕による運用が大きく貢献しています。 国内の交信もコンデションの悪化はひどく例年なら昼間の7MHz帯では込み合って通信できる空きチャンネルがなかなか確保できないのですが今年は周波数の空きがあるだけでなく、CQを連呼してもなかなか呼んでもらえない状況が多くありました。 7MHz以外の周波数では10分CQを出してようやく1局呼ばれるといった特別記念局とは思えない運用状況が日常化しました。 

 運用地別にみると、昨年の場合霞ヶ浦の1KW局の運用割合は71%でしたが、今年の運用では76%と霞ヶ浦の局の割合が増加しています。 50Wに簡易なワイヤーアンテナしか使用できない移動する局もバンドコンデションの悪化を受けて交信数が伸びないために、霞ヶ浦の比率が上がりました。 

 今回の運用で特筆すべき運用は何といっても5月28日に144MHzのSSBでBV2NTという台湾の局と交信に成功した事です。 8J1ITUでは初の144MHzでのオーバーシー交信です。 当日は50MHzまでEスポが発生して国内のコンデションがとても良く、144MHzでもDX通信に成功した局がある事をDXの情報でつかんでいました。 たまたま高性能なスペクトラムスコープを備えた最新の無線機を使って144MHzの信号を受信していた時に144.27MHz付近に中央にキャリアがあり両側に側波帯を持つ特徴的なパターンを示すAM変調の電波を発見したのです。 早速その周波数を受信すると、何と中国語の放送だったのです。 バンドを丹念に探した結果ついに台湾のBV2NTのSSBによるCQを発見し交信に成功しました。 この日、関東エリアで同局と交信に成功した局は数局しかありませんでした。 

ITUの関係する無線局とは4U1ITU(ジュネーブのITU局)とRTTYモードで交信に成功しました。 4U1ITU局とは過去にCWやSSBで交信実績がありますがRTTYモードによる交信は今回が初めてです。

運用の準備

 運用に入る前の準備期間では、4月23日にクラブ員による霞ヶ浦のアンテナ周辺の草刈りを行いました。 今年は春の気温が低かったせいもあって、雑草の伸びも遅かったので例年より1 週間遅らせて草刈りを実施しました。 運用する無線室や宿泊施設の清掃も合わせて行いました。 裏の竹林での筍堀もまずまずの収穫でした。 参加したクラブ員の方にこの場を借りてお礼申しあげます。

 

無線機設備の整備

 草刈りの日に無線設備の総点検と整備を併せて行いました。7MHz/10MHz用のアンテナのローテータが故障しているので交換作業を行い、50MHzのアンテナもステーワイヤーが切断しているのを修理しました。1.8MHzのダイポールアンテナも給電点の取り付部が外れて同軸ケーブルで支えられている状態を修復しました。運用開始後に7MHzのアンテナのエレベータ部に同軸ケーブルが引かかり、アンテナが最上部まで上がらない不具合が発生し、連休中に何とか修復して運用に入りました。 
 その後の運用で、14MHzの6エレの八木がローテータの故障が発生し回転できないようになりました。 ただでさえバンドコンデションが悪い中で6エレ八木が使えないと、交信数が下がるために、至急新しいローテータを手配し、次の週末の運用に入る前に、アンテナの工事専門業者FTIに依頼して緊急の補修工事と併せて同軸ケーブルなどの点検整備を行いました。その後の運用はトラブルも無く順調に行きましたが、屋外の設置した巨大アンテナの補修はとても手がかかる事を思い知らされました。

今年の運用

 今年の運用開始日の5月1日は月曜で平日でしたが前日の4月30日の夜から徹夜で運用しようと学生2名と共に00:00JSTを待って8J1ITUを開局しました。 開局前のワッチではヨーロッパの信号も聞こえていましたので、期待したのですが、いざ開局の時間になっても、コンデションは一向に上昇せず、初日の夜間の交信はほぼ空振り状態で終わってしまいました。 翌朝WB6Zの古谷さんがシアトルから霞ヶ浦のシャックに到着し合計6名で運用しましたが、初日の霞ヶ浦の結果はわずか621局に終わり、オペレータ1日の平均で100局あまりというかってない少ない交信で開局初日を終えました。
 交信の大部分は7MHzで、通常、初日は大パイルアップになるのですが、国内コンデションまで悪いために大きなパイルアップが発生する事もなく淡々と交信を進めるといった状況でした。 他のバンドは初日にしてCQの連呼という状況でオペレータの忍耐が要求される状況がずっと続きました。昨年の初日の交信数は1527局でしたので、今年の初日はその半分以下で、1万局の目標は夢かも知れないと思う出発でした。

霞ヶ浦の1KW局の運用 

 バンドのコンデションが悪い場合はCWの運用比率が高くなります。 今年は昨年よりさらに悪いコンデションだったためにCWの交信比率がさらに高くなっています。 また海外の交信が減った分を国内交信でカバーしています。 霞ヶ浦の普通ならCWの交信比率が高くなるのですが、DXのコンデションの悪化を国内の交信で補った結果今年のCWの運用比率が増加しています。 交信数は9,041局で合計で昨年並みの交信数を達成しています。 昨年は自局が送信した電波を世界中にある受信局が受信してそのレポートをインターネットで見る事ができる、リバース・ビーコンというシステムを使って、電波の到達状況を監視しながら運用しましたが、今年はさらに世界中にあるWebにオンラインで接続されているSDR受信機を使って相手のエリアの伝搬状況やバンドの空き具合を探すなど、さらに積極的にWebを活用しました。 特にスエーデンのSK3Wが公開しているSDRはヨーロッパでのコンデションの把握に活躍し、8J1ITUの信号をスエーデンで受信して、音声をインターネット経由で日本側で聴取する事に成功し、安心して交信をする事ができました。 最終の週では世界規模のCWのコンテスト WPXコンテストの参加し、昨年を上回る1826局の交信数を交信しました。 2016年のWPXコンテストではMULTI-MULTI部門で世界10位の成績でした。今年はさらに上位に入るかも知れません。

 

移動運用

 移動する局は、河津長、日立太田市、我孫子市、石岡市、土浦市、さいたま市、つくば市、吉川市、松戸市、江東区、板橋区、小笠原村、海上移動と多彩な運用を行い2904局と交信しました。 昨年に比較して移動運用の交信数が減少した分が今年の交信数の減少となっています。

 

「世界情報社会・電気通信日のつどい」式典の参加

 ITUの5月17「世界情報社会・電気通信日のつどい」の式典の会場ではCWのキーやCWに関する書籍の展示、今年の運予風景を写真で展示などを行いました。 霞ヶ浦の固定局のアンテナをドローンで撮影した空撮映像を披露し、8J1ITU局を参加者にPRしました。 昨年はリモート局の公開運用を行いましたが、今年は世界中のSDR受信機の音声をインターネット経由で受信する公開受信を行いました。

 

総括

 2017年の8J1ITU記念局の運用は過去最悪とも思われる電波伝搬のコンデションの中での運用でした。 開局初日の状況では1万局交信は夢かとさえ思われたのですが忍耐のCQ連呼をこつこつと重ねた結果、1万局越えの交信も目標を達成する事ができました。 一ケ月の限定された期間で運用する記念局としては、おそらく国内最高の実績ではないかと思います。 「世界情報社会・電気通信日」を国内外に広くPRする活動に参加できた事は、ひとえに日本ITU協会の皆様のお力添えと、日本ITU友の会アマチュア無線クラブの会員の努力の賜物と皆様に感謝したいと思います。

                                                                                                                2016年7月10日  日本ITU協会アマチュア無線クラブ会長 木下重博